第 六 話

「食」が保育の中にある

たけのこが土の中からにょっきり頭を出す季節。保育園のお昼時はたけのこの香りがいっぱい。「今日はたけのこご飯」というわけです。食べながらの子どもたちの話題はたけのこに‥‥。たけのこ掘りに行ったことがある子が、どんなふうに出てくるのか、どんな形なのかを、一生懸命説明しています。そんな会話にちょっと手助けを入れながら、保育士は「丸ごとのたけのこを見せたいな」と考えます。早速給食室の栄養士に話を繋げます。栄養士は「うん、わかった」と、にっこり。

都心の子どもたちのところにも、春はたけのことともにやってきます。

さて、次のたけのこご飯の前日。保育室にはたけのこが何本も運ばれました。重なる皮の外側に羽毛のような毛羽立ちがある。根っこの方はちょっとごつごつしている。子どもたちは興味津々です。「さあ、中はどうなっているかな」「切ってみようよ」。栄養士の出番です。「中の隙間がどんどん大きくなって伸びていって、竹になっちゃうんだって」「ふーん」。「じゃ、ゆでてみようか」「あくって何?」「ぬかって?」‥‥。耐熱ガラスの鍋の中で小さな泡粒がぷくぷく上がっていくのをじっと見ながら、子どもたちは「ゆでる」も体験します。

散歩先の近くの鳩森神社で子どもたちはたけのこが顔を出しているのを発見。また神宮散歩でも竹林の細い竹の先端が、あの皮にくるまっているのを発見。そして数日後、すっかり背が伸びて見上げるような竹になっている姿に出会います。子どもたちの「春」との出会いです。お昼ごはんのたけのこの味わいもまたひと味違う味わいだったかもしれませんね。

今、「食育」は保育指針にも位置付けられ、保育の中にしっかり根を下ろしていますが、鳩の森保育園では、「食育」が言われるようになるずっと前から、保育の中で「食を大切に」を謳い、こんな活動をさまざまに楽しんできました。

鳩の森保育園では、旧園舎時代からずっと「食」を大切にしてきました。

子どもたちの食事ですから、発達を踏まえた食形態や味を基本に据えるのはもちろんですが、まずは食事がおいしく楽しいことを大事にする。そして、旬の味や香りとともに季節を楽しむ。食品添加物は極力使わず、安全で安心な国産の食材を使う‥‥と、そんな姿勢をもって取り組んできました。

1989年には、「食べることを大事にする保育」を方針として打ち出しています。この保育実践が注目され、当時の新聞や育児雑誌等のメディアに鳩の森保育園の「食」が紹介されています。

世の中は、戦後の食糧難時代を脱し、このころ既に「飽食の時代」に入っていました。日本の食料自給率が下がり、輸入食材が増えてきて、「食」の安全への不安が出てきていました。また家庭での食事は、動物性食品や加工食品の摂取比率が高くなり、子どもの成人病などということも言われるようになっていました。鳩の森保育園の「食を大切に」の方針が注目されたのは、そんな時代状況に早くも向き合っていたからということでしょう。この「食」を大切にする姿勢は、今も法人各園で貫かれています。

食材は国産を、甘味もてんさい糖を・・・と、給食室もがんばっています。

「食」を大切にする方針が出されたころ、鳩の森保育園は母乳育児にも取り組んでいました。働くお母さんも母乳で育てたい人は一緒に取り組みましょうというわけです。今は冷凍母乳が一般的ですが、当時は近くに職場がある人が、授乳時間に保育園にやってきて授乳する‥‥と、そんな姿もあったようです。母乳育児の尊重。これも今につながっています。