第 九 話

待機児問題に応えて分園「このは」を開設

待機児が多い世田谷区は、新設園をつくってもつくっても追いつかないという状況でした。規模が小さい方が用地の確保もしやすい、手続きも分園にした方が早く進められる。ひとりでも多くの子どもが、より早く入れるように、ということだったのでしょう。世田谷区は保育園の分園づくりを積極的に進めました。

このような状況に対して、社会福祉法人として私たちも役割を果たそう。ということで、法人は世田谷区の分園づくりに手をあげました。八幡中学校の校庭の一角を借り受けての園舎建設です。等々力保育園を引き受けてからわずか2年ですが、2010年、等々力保育園から徒歩で7~8分のこの場所に、「等々力保育園 分園このは」が誕生しました。木造2階建てで、定員は55名。

門を入ったところから玄関までの木のアプローチ。季節の花々が迎えます。

開園したのは4月ではなく、暑い盛りの8月です。開設されるのを今か今かと、55名の子どもとその家族が待っていたのです。いかに待機児問題が切迫していたかがわかりますね。

0歳児は6名、1歳児9名、2歳以上児が10名ずつという小さな園ですから、職員たちは、クラスを超えてどの子のこともみんなよく知っています。子ども同士も大きい子も小さい子も互いに解り合っています。職員もみんななかよし。そんなアットホームな園です。

保育園のすぐそばには、ちょっと起伏もあり、緑の樹々もある「ねこじゃらし公園」があります。小さな水の流れがあり、季節にはおたまじゃくしが群れをつくっておよぎ、やがてカエルたちが、大きな声で散歩する人をびっくりさせるようになります。「このは」の子どもたちは、この公園での活動も含め、友達と一緒に過ごす園生活の日々をとおして、さまざまな経験をし、心も体もすくすく成長しています。

2階部屋の床の窓から1階の給食室の様子が見られるんです。子どもたち、ワクワクです。

さて、こんなふうに楽しく心地よい保育園ですが、実はちょっと困ったことがありました。中学校の大きな敷地の一部をフェンスで仕切る形で保育園が建設されているので、園用地が細長く、したがって園舎も細長いのです。それ自体は全く問題ないのですが、一番奥に給食室があり、その隣が0歳児室。0歳児室を通り抜けないと1歳児の部屋に給食が運べないのです。

これには建設直前の事情がありました。当初、そこに分園を建設する予定であった他の園があり、既に設計図を準備していたので、等々力保育園はそれを引きついで建設をしたという経緯があったのです。開園してからは、工夫をしつつ不都合を乗り越えてきたという次第です。

8年を経て、「やっぱりこれはなんとかしたいね」というつぶやきから、「子どもたちの日々の生活に関わることなのだから、思い切って改修しようよ」という声になり、一気に改修へと動き出しました。

2019年、こうして大改修が始まりました。0歳児は仮園舎に移動しましたが、あとは子どもたちがいながらの改修です。子どもたちは、天井や床が抜けた骨組みだけの自分たちの部屋を見せてもらったり、大工さんたちのカンナづかいを間近に見ておよそ半年‥‥。給食室が真ん中になりました。もう給食ワゴンが保育室の中を通り抜けることはなくなりました。

このはの木。はっぱのひとつひとつが子どもたち。みんなでつくるみんなの保育園です。

階段の位置が変わって、おもしろいことに長い園舎は「まるで船みたい」ということになりました。階段の両脇は西デッキと東デッキです。そして階段の2階側についた丸窓は船窓のムードで楽しさを創り出しています。改修では少し増築をし、定員も58名になりました。開設から10年となる2020年、「このは号」は子どもたちをのせて再び出港しました。さあ、今年の子どもたちと職員たちは、どんな航海を楽しむんでしょうね。