第十一話

子どもから始まり、子どもとつくる保育

岡本こもれび保育園が開設に向けて園舎建設を進めていたころ、鳩の森保育園でも園舎のリニューアル工事が進んでいました。鳩の森保育園は建設からはや30年。あちこち傷みが生じていました。鳩の森の園舎は新しい耐震基準ができた後の建物なので、3.11の時も、どこからもモノひとつ落ちてこなかった‥‥と、その点は問題なかったのですが、床下の水道管などは老朽化が進んでいたので、「噴水が起こったら大変」と、そんな心配があったのです。

1982年、竣工したばかりの頃の園舎。線路側から撮影。

そこで2014年の大規模改修となったのですが、その際に、幼児の保育室には秘密基地のようなロフトをつくったり、乳児の部屋や事務所のドアには、0・1歳の人たちと大人とが、部屋の内外で非言語コミュニケーションを楽しめるようにと、ドア下方にかわいい小窓をつくったり‥‥と、遊び心がいっぱい膨らむ部屋作りをしました。

今日も事務所の小窓に「げんきですか」と登場する0歳児

わくわくする新たな環境の下で、子どもたちの遊びも一段と広がっていた、そんなある日のこと。ひとりの子どもが白い壁を歩く小さなクモを見ながら、「クモはどこから糸をだすんだろう」のつぶやき。その一言から、子どもたちみんなによる神宮でのクモの巣探しが始まりました。クモの巣さがしはさらに図鑑を持っての散歩に発展し、クモ研究が始まります。クモが巣を張るところを見たいと保育園に連れて帰ってきて、予期せぬ共食い事件にもなりました。

ぬくもりのある木の階段を登って降りて

そのうち新聞紙を丸めて紙を貼って、保育士と子どもたちのクモづくりが始まりました。出来上がったクモが鎮座するクモ研究所も、いつの間にか部屋の一隅にできました。そこでは、ボール紙でつくった眼鏡をかけた研究員が大真面目な顔で図鑑をめくり、研究をしています。

そして、冬の劇に取り組む季節。子どもたちはクモの劇をしたいと言います。かくして「こちらクモ研究所」という劇が生まれました。お父さんの大きなワイシャツの白衣を着た小さな研究員たちが、保育士扮する記者のインタビューに対し、自分たちが知り得た知識を基に「クモ」を語ります。その後ろにはビニール傘の骨に、両面テープをねじって糸にして張ったクモの巣も‥‥。粘着しなくっちゃと、子どもたちがつくったクモの巣です。

見つけて観察するところから始まり、調べる、制作する、ごっこ遊びをする、さらには劇へと、クモのテーマを軸に、子どもたちは遊びをどんどん発展させていきました。

暑い夏、青空の下でのプールは気持ちいい

たまたまソニー教育財団の「科学する心を育む」論文募集があるのを目にし、この保育実践をまとめて出したところ、思いがけず2016年度の「優秀園」の栄誉をいただいてしまいました。100を超える幼稚園、保育園の中からということで、びっくりです。子どもたちと保育士とが一緒にワクワクしながら取り組んだ活動が賞を得たのです。

これをひとつのきっかけに、これまで自然体でやってきた「子どもから始まり、子どもと一緒につくる保育」を法人の基本姿勢として明確にしました。また鳩の森保育園は、毎年行われる全国合同保育研究集会に、自分たちの保育実践提案をもって参加することにも一歩を踏み出しました。さらに、保育雑誌「ちいさいなかま」の原稿依頼を受け、保育実践をより多くの人と共にする‥‥と、これにも積極的に取り組みました。

保育を父母と共有することにも取り組んできました。「鳩の森カフェ」です。映像を交え保育を紹介し、茶菓を楽しみながら語り合う、学びあいの場です。年1回、回を重ねてきました。

1・2歳のクラス(2階の部屋)

子どもが目を輝かせ、発見したり、工夫したり、チャレンジしたりする。保育士もそれに負けじと発想の翼を広げ、工夫し、子どもたちに提示したり、巻き込んだり‥‥。そんな掛け合いのようなおもしろさが、保育の現場では今日も展開しています。